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ジム・ジャームッシュ『パーマネント・バケーション』

アロイシュス・パーカーは、チャーリー・パーカーと姓が一緒の主人公。リーラという恋人の家に転がり込み、夜毎に出歩く。何度となく読んだロートレアモン『マルドロールの歌』を彼女に残し、今日も夜の街に繰り出すが、そこで出会うのは各種のアウトサウダーたちである。古戦場で敗残兵に遭ったり、夜の映画館、精神病院の母、と謎の彷徨に『地獄巡り』めいたものを感じる。ジョン・ルーリーがサックスを吹く肥溜めのような街角に行き着き、その調べをバックに舞台は朝を迎える。

豪快に盗んだ車を売りに出し、800ドルを持って家に変えるとリーラは姿を消している。観客には、彼女が姿を消したのか、そもそもいなかったのかがわからない。若さと創造性が暴力的に爆発している冒頭のダンスシーンで、薄っすらと背中越しの笑みを投げかけていた彼女が「そもそもいなかった」のだとしたら

ひとところに落ち着くことのない、永遠に旅を続ける人間として、「永遠の休暇(Permanent Vacation)」を気取る主人公。パリから来た旅人とすれ違うように、彼もまた旅に出る。NYを背景に船が往くシーンで幕を閉じるが、この船がパリまで航海するような雰囲気には見えないのである。

ジャームッシュも手掛ける劇伴は、ガムランがボーンと鐘のように鳴り響くアンビエンスが不気味に美しい。茫漠と荒廃したNYは、アレックス・ロックウェル『Lenz』も思い起こさせる、ジム・ジャームッシュ初長編監督作。1980年の卒業制作で、次作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』まで4年の間が空くこととなる。

MCATM

@mcatm