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ブリーディング・エッジ

内容については、俺達の導き手こと佐藤良明さんが詳細に書いてくださっているのでそれを読んでくれ。つうか、原書で読んでいる人は、この丁寧な訳注なしにどうやって読むんだろう…と思ってしまうほどの衒学的な情報量。NYの街並みや暮らしが細かく描かれているのはご本人がお住まいらしいのでまあ良いとして、映画、音楽、ゲーム、TVショー、ファッション、軍事、政治、そしてITについての膨大な知識が前提となったギャグが寸暇を惜しむ間もなく投入されるので、俺は未だにピンチョン複数人説を疑っている。

シングルマザーの不正会計調査員マキシーン・ターノウが、あるITセキュリティ会社の不正を「まったくのおせっかいで」暴き始めるというのが物語の始まり。そこから登場人物が入れ代わり立ち代わりめくるめく。不正話を持ち込んだドキュメンタリー作家、彼が雇った天才ハッカー、サイバーパンク系バンドでボーカルしてるジェニファー・アニストンかぶれの女、元社員、父母、拳法を習ってる息子たち、その友人の父親は当のハッシュ・スリンガーズに雇われるし、妹の旦那は元モサド。

そうしたギャグで埋め尽くされた雑多な物語の枝葉が、かの9.11に繋がっていくダイナミズムは圧巻。そして、凄惨な過去を背負い心を失った諜報員に、不本意ながら徐々に心を寄せていくマキシーンの苦悩が実に丁寧に描かれている。脳天気な元夫の再登場で、彼のことを考えなくても済むようになるが…。彼を巡るドタバタはかなりのスペクタクルだった。

その点、アブストラクトに描かれる終盤、物語のオチは霧散しているが、風呂敷畳まない姿勢はそれで良かった気がする。諜報員の元妻が現れたところが実質クライマックスだったと思うな。

MCATM

@mcatm

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