ワイルド・アット・ハート
映画としては良い…というか結構好きだが、「果たしてパルム・ドールを獲るほどのものなんだろうか?」。ポン・ジュノ『パラサイト』を観た後みたいに、今回も首を捻った。デヴィッド・リンチ監督による、長編第5作目。『俺たちに明日はない』や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『ハネムーン・キラーズ』のような、破滅型カップルを描いたメロドラマ。リンチ映画ミューズの一人であり、『スターウォーズ』から『マリッジストーリー』まで出演作多数で、2020年代に第2の黄金期を迎えているローラ・ダーンと、「みんな大好き」でおなじみ、「復讐を誓って斧を鋳造する男(『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』参照)」ことニコラス・ケイジが主演を務める。
冒頭から展開されるとんでもなく雑な殺人計画と、とんでもなく雑な返り討ちに、開始早々3分ぐらいで胸焼け。ローラ・ダーンの母親を演じるダイアン・ラッド(実母!)の、娘に対する異常な執着と支離滅裂な行動が、愛する二人を追い詰めていく。基本的に全編、低予算スリラーのような拙速極まりないシーンが連なっていく。遅延の塊であった『ツイン・ピークス』とは対象的に、速くて、粗い。まるでコミックの登場人物のようにデフォルメされた登場人物たちが、娘のオトコをトイレで誘惑したり、顔に口紅を塗りたくるなどの極端な行動に走りながら、沿道で爆発炎上を続け るような暴力的なボルテージが持続する。
イベントとベッドシーンが交互に繰り返される野卑なリズムで構築されたロードムービーは、イザベラ・ロッセリーニ演じる女が登場し、ほとんど大勢に影響のない謎の陰謀が跋扈するころになると、リズムが物語と共に崩壊してゆく。かくして、70年代の享楽を体現したような「現代」のボニーとクライドは、スピードと突き上げるようなリズムの中で、エルヴィスに乗せた愛の瞬間を享受するのであった。Love Me Tenderとしか言いようがないよ、最高だぜ。
「上手い人にはおまかせ、下手な人もそのまま」といういつものキレキレリンチ演出が、パルム・ドールのなんたるかを脆弱なものとするんだけど、それでもなんというか、空回りし続けるエナジーのようなものは感じるわけ。インチキ空手とキチガイの地団駄のようなダンスではしゃぎまくる二人の姿を眺めるロードサイドは、やはり寂寞とした風情みたいなものを漂わせているのだから。
MCATM
@mcatm
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