SKIN(短編)
小さな家のポーチで息子の髪を刈る父親。とにかく柄は悪そうだが、幸せそうではある。そんな家族を映した風景が、一瞬で悪夢のような状況に陥ってしまう。どこにでもありそうな、とても幸せな家庭を持つ男性が、被差別人種である黒人を前にするととんでもなく凄惨な暴力装置となる。その瞬間の、理屈が蒸散してしまったような理不尽さから漂う、強烈で身も蓋もない胸糞悪さ…。
ジョージ・フロイドさんの見るも痛ましい事件を受け、Black Lives Matterが再燃し大きな社会問題となっている今、アカデミー短編作品賞を受賞するなど、高い評価を得たガイ・ナティーブ監督作『SKIN(短編)』がオフィシャルサイトで緊急公開されている(18日24時まで)。この作品は、ジェイミー・ベル主演で6/26に公開になる同監督の『スキン/SKIN』への出資を募るために制作されたもの。この短編の男の子は「トロイ」で、長編の主人公は「ブライオン」と、直接的なリンクはない模様なのだが、どちらもレイシズムを扱っている作品という意味で、見逃せない共通項を持っている。
無邪気に目の前の子どもと戯れただけであまりに酷い仕打ちをうける被害者の黒人男性。その家庭も、そしてレイシストの家庭もそれぞれどこにでもある「幸せな家庭」である。そこに「血の掟」が持ち込まれ、戦争が始まる。報復を以て、暴力は増幅する…。と、また平凡な抗争モノを想像している と、ロメロ的なシニシズムを持った物語の転換が、ほとんど喜劇のような結末を呼び込んでくる様に息を呑んでしまった。めちゃくちゃおもしろい…。
ここでもクローズアップされるのは、暴力そのものよりも、それぞれの距離を保ちながらそれを取り巻きにしている環境である。一家の母親は、夫の暴力性やレイシズムに対して多かれ少なかれ批判的な感情を持っているように見える。しかし、その息子が、夫の生きる世界で成果を出し始めると、息子の成長と暴力への迎合をひとまとめにして、ある種の満足感に浸ってしまう。そうした迎合の果てに、新たな暴力が生まれる。母親を演じるダニエル・マクドナルドが、長編にも別の役で出演していることは、この二本の映画がこうした「暴力の周縁」を語る上でのミッシング・ポイントとして機能するのではないかと、密かに期待している。
MCATM
@mcatm
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