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クリスティ・プイウ『ラザレスク氏の最期』/たらい回し医療の地獄

腹痛と、それ以上の頭痛を電話越しに訴えるラザレスク氏。「腸の潰瘍だと思う…」という過去の手術がもたらす憶測が、頭痛を過小評価させる。見るからに埃と垢に塗れた小さなアパートで老齢の一人暮らし。娘はカナダに暮らし、親戚は遠くに住む姉一人。ラベルの剥がされた汚いペットボトルが至るところに放置されていて、そこからおもむろに飲んでいる泡立つ謎の飲み物が酒であることは、後に聞かされるまでもなく薄々推測できる。そして嘔吐。

甲斐甲斐しく介抱してくれる隣人夫婦は実は大した仲でもなく、彼らが老ラザレスクの搬送付添を渋ると、地獄のたらい回しがスタートする(でも、自分が隣人夫妻だったら、その立ち位置でここまで面倒くさいことやれる?と自問自答)。救急隊員ミオアラが病院に搬送すると、やれ「酒を飲んでるな?」、やれ「何でこの病院を選んだ」、やれ「お前が診断するな」だの、「邪魔だ」「俺たちが忙しいのはお前らのせいだ」「臭い」「ノキアの充電器持ってるか」「CTは午前10時まで空かない」「静脈瘤があるなんて聞いてないぞ」などとイチャモンを付けられるミオアラ。ノキアの充電器?徐々に彼女はラザレスクのためというよりも、己が尊厳のために医師やスタッフに憤りを隠さなくなっていくが、医師はプロでミオアラは素人。口出しはことごとく的を外し、夜が更け空も白んでくる時間になると、医師も疲労の色を隠せない。運の悪いことに、大規模なバスの事故が発生した夜、実際に医療現場はパンク寸前なのである。こうして、中心に位置するはずのラザレスクの存在感は、ラストの衝撃的な一言に至るまで、その意識と一緒に急速に薄れていく

医師にも様々な人がいる。気が張り詰めているため言動は荒いが、決して患者のことを蔑ろにしているわけではない者、夫婦でイチャイチャと緊張感がなさそうだが、いざ仕事に向かうと集中して事を進めようとする者など、そのほとんどは決して無能なわけではない。知り合いだからとか、「親戚だ」と嘘をついて(おそらく相手も嘘を承知で)診察や治療を優先させたり、多くは有能なだけではなく賢く融通も効く者たちとして描かれる。一方で、ほとんど犯罪に近いような行為に及ぶような医者も出てきて、決して一面的に描けるような状況ではないものの、一様に言えるのは、皆忙しく、疲れている。この映画で描かれた「地獄めぐり」は、こうした環境によって生み出されているものなのである。

クリスティ・プイウ監督作。2時間34分と長尺だが、全く飽きさせない傑作。

MCATM

@mcatm

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