Seed

アイアン・フィスト

今年の中盤、この映画が好き過ぎてとてもマズいことになった。

タランティーノの新作だ!と飛びつくような熱心なファンでもないし(『パルプフィクション』観たよ、今年初めて!面白かった!)、そもそもこれはタランティーノ作品でもなく、監督は単にカンフー映画撮りたかっただけのヒップホップスター・RZA。ウータンフリークでもない俺にとって、その時点で引きがゼロ。そんな人が成り行きで観に行き、結果三回も映画館に通うことになるわけだから、映画ってわからない。

往年のカンフー映画にマッドマックス足して10掛けたような過剰な世界観が、ウータンの名曲に乗って幕を開ける。RZA演じる村一番の武器職人は、街のワル共に両腕を切られ、復讐心をフツフツと煮えたぎらせる。一方、村ではそのワル共が勢力争いの末にボスを暗殺、その息子は命を狙われる。幾重にも重なった復讐譚がこの物語の基盤。多少の粗は一切気にせず展開していく物語のスピード感、それでいて破綻しない絶妙なバランス感も、この映画の魅力だ(これは、脚本に関わったイーライ・ロスのイイ仕事かも)。

愛さずにはいられない世界観(絶対行きたくねえけど)。特に、監督自身が演じた鉄の拳を持つRZAの「虚無」な表情、映画史上稀に見るエロさを爆発させたラッセル・クロウ、キルビルよりかっこよかったルーシー・リューなど役者の魅力が活きていたキャラクターや、見た人みんな忘れられないだろう双飛(無駄な動きが多いがちょーかっこいい美形夫婦)、鉄の拳を持つ男・RZAのライバルとなる鉄の身体を持つ男・金剛といった「俺の考えた最強のカンフー映画」感満点のキャラクター、他にも売春宿の過剰に煌びやかな感じとか、観た人なら分かるブラックウィドウ、悪役たち、村の孤児たちなど、愛が溢れてるが故にこちらも負けじと愛したくなる世界が、物語に豊かな色彩を与える。やっぱ、創作ってマーケティングとかバジェットとかじゃない、意欲があれば何にも勝るんだということを信じさせてくれる熱量が、この世界を産み落としたんだと思う!

俺の好きなあいつらが、有無を言わさぬスピード感で敵たちをぶちのめしてくれればそれでもう言うことはないはずなんだけど、細かいところもちゃんと気が利いててるのが、意外と気が小さくて良いヤツなのかもRZA。俺が好きなシーンは、ゼン・イーが新妻を置いて戦地に赴くところで、ネクタイ締め直す感じで仕込みナイフをシャコン!ってさせる爆笑シーンなんだけど、そういう細かい、場合によってはどーでもいいディティールの積み重ねで、荒唐無稽にドライブがかかるのだから見逃せない。他にも音の使い方、例えば金剛が胸筋をピクリとさせるたびに鳴るドーンという効果音や、双飛妻が敵の胸板を駆ける時に鳴る必要以上に激しい効果音など、「それ、よく考えたら、景気いい音足してるだけじゃねえか」と思うんだけど、脳味噌カラにして鑑賞してる時には全く気づかず歓声あげてる。映画と音のマジックで作り出す甘美な嘘を堪能できるという意味で、やはりこれも気の利いた作りだなーと感心してしまう。

リアリティラインの絶妙な設定、つまり「荒唐無稽でかっこイイっしょ!」に振り切ったおかげで、数ある残虐描写も笑えるものになっていると思うし、色々すったもんだでクライマックス、あの二人が遂に同じステージに立つその瞬間の、音楽、演出、舞台、役者、すべてがギュッと集中していくゾクゾク感は、荒唐無稽では語りきれないサンピンスペシャルなものがあった。舐めてるとぶっ飛ばされる快作で、俺はこれを2013年に観た新作映画の三位にランクインさせました。オススメ。

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