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闇のあとの光

沢山の馬と犬、牛達に囲まれて少女が荒野をウロウロと彷徨う冒頭シーン。稲光と暗闇に覆われて、少女の息遣いだけが聞こえてくる。その美しさと静謐さには誰もが息を呑んだに違いない。メキシコのカルロス・レイガダス監督作『闇のあとの光』は、本当に難解な映画だった。ヌエーヴォ・シネ・メヒカーノ(メキシコの新しい波)の一員で、2000年代以降のメキシコ映画の流れに大きな影響を与えたらしいが、日本ではまだきちんと紹介されていなかった監督。

タルコフスキー、ソクーロフ、タラ・ベール、テレンス・マリック、アピチャッポン・ウィーラセタクンなど、色んな作家を引用されるが、どの作品にも似ていない。構造的には、土着の人々と外部の人々、そのレイヤーが衝突する物語ではあって、そういう意味では富田克也監督の傑作『サウダーヂ』を想起させるが、そんなにわかりやすい話ではない。

その難解さの多くは、我々がメキシコの歴史と現実をしっかりと理解しているわけではないところに起因しているとは思う。特に、何らかの依存症を抱え、掘っ立て小屋に住むような(そして、後半で大きく物語を突き動かす)あの人々のような貧困を、理解できていないが故の難解さではあると思う。しかし、夢と現実、過去と未来が何の断りもなく縦断する物語構造、そしてひとつの光景を冷淡なまでに捉え続けるカメラが、我々の理解を助けるつもりがないのも、無視できない要因ではある。だから、油断すると間延びしたように感じて、凄まじい睡魔に襲われるのも事実ではあるが、画と行間からはその必然性をギリギリのラインで保とうとするが故のビックリするような緊張感が伝わってくる(その極北が、眠気と興奮の狭間で、ただ延々と倒れる木が映し出されるシーンだと思う)。

「人外のものからの視線」を感じさせる中心以外がぼやけたエフェクト、サウナでの奇妙な乱交シーン(あそこでのフアンは顔が違いすぎてて、誰だか分からなかったし、時制も不明。あれこそ夢?)、悪夢を見ているような斬首のシーンや銃撃シーンなど、驚きのシーンは数多くあれど、最終的には呆気にとられた観客が、終演後のロビーでレビューコーナーに群がって答えを求める(しかし、そこに答えなどない!他の人の解答があるだけなのだ)という観たことのない風景が広がっていた。

未だに何の悪夢だったのかよくわからないが、とにかく信じられない映画を観た気分だけを抱えて、何度も何度も反芻するうちにすごく好きになってた、この映画。レイガダス監督の他の作品も観てみたいと思っています。(処女作『ハポン』はどうしても都合付けられなかった…)ところで、この映画、何の映画だったんだろう?俺は、「暴力は連鎖しない…はず」っていうことを、言いたかったんだと思っているんだけど、でも、100人いたら100通りの答えがあるだろうと思います。

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