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「SRサイタマノラッパー2」サントラについて全曲感想

勢いがあるうちにじゃんじゃん行こうか。今回は「SRサイタマノラッパー2」サントラについて全曲私見で解説。結論から言うとすげーいい。サントラとしても、ヒップホップアルバムとしても、女子ラップ作品としても非常に立派な仕事をされたなーと思う。難しいバランスをよくぞここまで。

まずはこのアルバムを作り上げた人たちについて。

ミドルスクール感あふれるトラックはドラマ「モテキ」の音楽担当もやっている岩崎太整氏が作っている。
んで、ラップ指導及び全ライムを書いているのがヒップホップバンドPOP ORCHeSTRAの双子MCこと上鈴木伯周(TKD先輩)&上鈴木タカヒロ(兄)さんのお二人。

ラッパーは劇中のグループ「B-hack」の5人。みんな女優さんだよ。
アユム(山田真歩)・・・群馬のこんにゃく屋の一人娘、という設定(以下略)
ミッツー(安藤サクラ)・・・老舗旅館の娘。母の借金返済に追われる。
マミー(桜井ふみ)・・・ソープ嬢ラッパー。彼氏は経営者の中国人リュウ君。
ビヨンセ(増田久美子)・・・市議会議員を父に持つプチセレブ。
クドー(加藤真弓)・・・硬派な走り屋ラッパー。
以上が簡単な紹介。

サントラだけど、CD単体で作品でもある。そして、危険な試みも。

この「SRサイタマノラッパー2」オリジナルサウンドトラックは「SR1」同様、基本的にそれぞれのキャラがそれぞれの役柄をそのまま反映して作ったスピンオフ的作品集なんですよ(劇中ではほとんどインストトラックとして使用されている)。
それってともすると、緻密な計算の元に築きあげた劇中の人物像を、もっと言うとキャストスタッフ全員が汗水たらして完成させた映画そのものを簡単にぶち壊しかねない危険な試みでもあるわけです。だって、「うーん、この言葉じゃなかなかいい韻踏めないから、こっちにしちゃうかー」なんてよくあるライム創作上の便宜一つで「え、この子こんなこと言う子だったんだー。幻滅。それじゃあのシーンあれであれだったんじゃないの!?」と思わせちゃうんですよ。怖い怖い。
俺がすっげーなーと思うのは、そこを敢えて大股で踏み込んで、妥協せずに意味を通してきちんと韻を踏み(散文的な表現です、と逃げを打たない偉さはライムを書いたことのある人ならみんな分かる)、劇中の人物像をより愛しさを感じさせるほどに深め、魅力的なヒップホップ作品としても成立させていることです。これは上鈴木兄弟の立派な功績だと思うのです。

SR2のトラックについて

岩崎氏の経歴を知らない上で書いてみますが、「音楽家がヒップホップをやってみた」じゃなくて「ヒップホッパーが音楽家になって作った」感じだなあという印象を受けました。すごく一般的なイメージなんですが、前者aka「取り入れ系」にありがちなのがパラッパラッパー的な感じ(あれも好きなんですが)で、それっぽいループ主体のクリアなトラックにブレイクビーツやスクラッチなどヒップホップ要素を足していくあれ。でも本作は明らかに「うん、ヒップホップ好きなんですね」って思えるあれがある。
たとえば「蒟蒻Daddy」の頭からお尻までずっと鳴ってるオルガンみたいな音階未満のノイズ音。「WALK "GUN-MA" WAY」における飛びネタとしての鳥?の鳴き声風サウンド。こういうので曲の雰囲気を決めるのってヒップホップが最初にある人ならではじゃないかなーと思う。
んで、全体的な印象はニュースクールっていうよりはミドルスクールって感じというか、87年的サンプリングコラージュというか、サンプリングタイム短かった時代のゴチャゴチャサンプルトラックでしっかり低音、ラティーノな金物鳴り鳴り。勢いのあるトラックはDEVLARGE風、内省的なトラックはMitsu the Beats風?つまるとこ、いい。

そして、女子ラップというものについて

実は海の向こうでも非常に珍しい存在で、いても大抵「男勝り」キャラばかりなんだけど、日本の女子ラップ史を紐解くと(いや男女関係なくだけど)ギミック的な、カワユイ飛び道具的な遊びとしてのラップがスタート地点だったりするんですよ。「山田邦子のかわい子ぶりっ子 バスガイド篇」が有名かな(勿論これがラップかどうかという議論はあるけど、シック的ディスコトラックを弾き直して喋るという点で「ラッパーズディライト」を髣髴とさせる)。これこれもそうだね。
もう一つの路線としてあるのがサブカル枠。古くはメジャーフォースのThe Orchids(最高!)で、高木完の完成度高すぎトラック上でモデルとスタイリストの女の子二人にへたうまラップさせるという好事家ならたまらないもの。最近ならハルカリか。そして、ようやく正統派BGIRL路線も「男子ツアー参戦&即優勝」的痛快さのある純ラッパーco-machiの登場により確立されつつあるのかな。まあそんなとこ。
で、SR2サントラ聴いてすごい良いなーと思ったのは、アユムとミッツーがちょうどこのどこにも属していないラッパーなんですよ。ギミックとしてのカワユイ女子ラップ以上で、サブカル?BGIRL未満な感じ(ちなみにマミーは前者、ビヨンセ&クドーは後者に属すると思っていて、そのジャンル特有のカタルシスをガンガンくれる)。語弊を恐れずに言えば、「普通の女の子のラップ」。そんな単純なもんじゃないけど。もっともっと録音されるべき層のラップ。普通の女の子が表現方法としてラップを選ぶことってまだまだ抵抗あるのかもしれないけど、そこにはBBOYにもBGIRLにも決して成し得ないラップがうまれるはずで、彼女達がもっと日記つけるみたいにラップをしてくれればいいな。そして、俺はそれを読みたい。
ちょっとずれたけど、そんな点から女子ラップアルバムとしてもSR2サントラは貴重だと思う。

曲紹介の前に、5人のラッパーとしての印象。みんなも同じこと思った?

アユム・・・とにかく、恐ろしく、声が良い。音の成分の問題?それだけでラッパーとして稀有な魅力もってる。ほんと魅力的でいつまでも聴いていたい。女優としてもこの声は宝だと思う。
ミッツー・・・いい感じでゆるいラップでキャラ立ってる。どんなに忙しくても完全にライムを覚えてきた、とはTKD先輩談。
マミー・・・これぞ定番「女子ラップ」。5人組に絶対1人必要なカワユイ枠で、飛び道具担当か
ビヨンセ・・・河原バトルでの超キレキレな好戦的なラップに惚れ惚れ。声質がバトル向き?
クドー・・・俺の周囲では「クドー=前世がラッパー」説が浮上。なんでできるんだろ。それほどかっこよい。

では、全曲感想。「ラボの好きなパンチライン」も選んでみました。

(注意!そこはかとないネタバレはあるかもしれません。)

1. ワック♪ワック♪B-hack(ラップ:B-hackの5人)

みんなが見終わった後、3日は脳内再生してしまう「B-hack」5人揃い踏みな主題歌。SR2観る前にYouTubeで聴いて「あれ?シュッシュッシュッってどういうことなん?」と思ったけど、観終わればなるほど、学園祭仕様なのね(ミッツーの過剰演技に笑い、クドーの美少女ぶりに・・・)。トラックは「ultimate breaks & beats」に収録されてそうな(探したけど見つかんなかった)ホーンがあがるハッピーなダンスクラッシック調なもので、間違いない。自己紹介ライムでマイクリレーしてるんだけど、5人5様のキャラに即した語彙でそれをやっている。初めてコージー冨田のタモリのものまね(アドリブでかぼちゃを渡され「裏ごしすると、うまいんだよこれ」とやったんだ。声だけじゃなく語彙のものまねを!)を観た時のような「おー」がある。

「ラボの好きなパンチライン」 

(クドー)ランエボ ハチロク Zにシビック クラッチ並みに繋ぐのリリック・・・

意味云々よりひたすら語呂がきもちいい!

2. WALK "GUN-MA" WAY(ラップ:IKKU & TOM)

で、衝撃!IKKUとTOMが群馬でTKD先輩の伝説のライブ会場を探す設定の2MCものなんだけど、ラップうまくなってる!!!!!!!IKKUなんか堂々と山田マンみたいなフロウ。トラックもウッドベースが「耳ヲ貸スベキ」みたいで90年代後半国産ヒップホップの気持ちよさに満ちてる。二人の弥次喜多かけあいラップににんまり。
人の言葉を借りるとSR1って4コマ漫画の3コマ目で終わってる映画なんだけど、彼らSHO-GUNの4コマ目はSR2にデカデカと描かれてるんだよな!というかB-hackの4コマ目にめり込んでたというか、ね。この曲は全体的にユーモラスに誇張した内容になってるけど、SR1を観た人なら、このサビに泣いちゃうよね。

「ラボの好きなパンチライン」 

(TOM)分かったよIKKU 俺も群馬に行く 忘れかけた魂 いま探す旅路・・・

なんか段々声が小さくなってるのがTOMらしくてたまらなく好き

3. ディスティニーズ峠(ラップ:ビヨンセ&クドー)

一番好きって人も多いのでは。知人女子ことMON画伯曰く「出勤前に聴いてテンションあげる」問答無用の重量級ヒップホップトラック。なんかめちゃくちゃ重いデコトラが高速で走ってるみたいな、それこそ「とめられねっーぞー」なすっごいDEVLARGEっぽいグルーブ。25歳組ことビヨンセ&クドーはどちらも正統派BGIRL的ラップスタイルなのでヒップホップトラックと相性が良い。「とめられねっーぞー」は発明。聴いてて気持ちいい。そして、出しぬけにCメロでR&Bトラックに切り替わって歌、嶋野百恵っぺえ!ドラムも超90年代R&Bっぺえ!そして、二人はなんでこんなにラップうまいんだろう。うらやましい。ビヨンセは河原シーンばりに好戦的な声質で最高だし、クドーは本職の風格すらあって最高。

「ラボの好きなパンチライン」

(クドー)アタシがクドー on the 後輪駆動・・・

もうこの一行でノックアウトされた。

4. 蒟蒻Daddy(ラップ:アユム&アユム父)

これもすごい成果。なんといってもアユム父こと岩松了氏が初ラップでまさかの飛距離。おじさんによるお遊び的企画モノラップならまだしも、こんなごりごりのトラック上(MCソラーみたい?)でがっつりラップしてる。こんにゃくについて。「独自の製法(セイホー)」だよ。ライム製作者にはほんと頭が下がる。さらにこの曲って、考えようによってはあのシーンを更に推し進めたあれでもあって、あれだ。アユムのとっての「ラップ音楽」が、アユム父にとっての「こんにゃく」。だからこそ父はこんにゃくについて自分なりの言葉を持っているわけで、それはまたラップするのにふさわしいトピックである。なんの話だっけ?難しい。。。しかし、アユムの声はここでも魅力的だ。女優さんってすげーな。

「ラボの好きなパンチライン」 

(アユム父)いい年こいてラップ音楽ばっかり追っかけてなんになる・・・

劇中にも出てくる父の言葉「ラップ音楽」。父からすれば何も間違ってない。娘からすると何から指摘すればいいのか分からずとにかく気が遠くなる一言。これ。この断絶。これを一語で表現した入江監督はすごい。「ヨーヨーでしょ?」「チェケラッチョってか?」までは思いつくけど、「ラップ音楽」は思いつかない。余談ですが、うちの母はJリーグをいつまでも「カズ」と呼んでいます。

5. interlude #1

Yes It's Youのうふーん。スクラッチはサンプリングしてから叩いてるのかな。配達バイクとばすシーン?

6. "The Message"from DJ TKD(ラップ:TKD先輩)

TKD先輩の伝説ライブシーンで演ってた曲。難易度高い設定(例えるなら漫画家が「天才画家の描いた幻の傑作が見つかりました、これです!」ってコマを描かなくちゃいけないのと同じ)ながら、ヒップホップについて堂々ラップ。この曲聴いてとばされてるシーンのアユムの表情は忘れられない。最初に泣きそうになったシーンだ。

「ラボの好きなパンチライン」 

(TKD先輩)ブラックとかホワイト選ばされるイエロー 俺らで作る そう新しい色・・・

これすごいこと一行で言ってる。

7. B列車で行こう(ラップ:ミッツー)

これも他にない。東京から帰省するミッツーの情景描写&心象風景ラップでサビは歌っちゃってる。ラッパーでもシンガーでもない女の子による巧みなライミングで進行していく不思議な一曲。トラックはなんていうんだろう、breakthroughっぽい?違う?上鈴木兄弟のお二人、相当なストーリーテラーだと思う。

「ラボの好きなパンチライン」 

(ミッツー)片田舎でも楽しかった でも今は違う 一駅ごとカウントダウン出戻り落ちた身分・・・

高崎線沿線で暮らすUターン経験者が全員SAYギャフーン。甘酢的観点から。

8. 男と女のLOVEラップ(ラップ:マミー&リュウ君)

夫婦歌謡ならぬ夫婦ラップ。サビ歌も昭和にしてある。でも、ビットレート落とした「ヘイ!」がいい具合に入っててB濃度保っている。この曲、いいの知ってるんだけど、可笑しいの知ってるんだけど俺聴けないんだ。なぜなら本編でのマミー軽トララップ(屈指の名シーン)で号泣したから。マミーは、あの時遠く前の方を観ながらラップしてた。。。

「ラボの好きなパンチライン」 

(マミー)1本2本10本100本マミーとリュウ君で幸せkeep on!・・・

その単位とkeep on!で韻踏むのってメーイニアックなライムフェチ向きでいいよね。

9. interlude #2

どのシーンだろう??わかんなかった!!

10. 右往左往(ラップ:アユム)

これは・・・・・・(ラストシーンでのアユムのラップが元になってるのかもしれないけど)アマチュアミュージシャンにとってなにも感じないのは無理っていう全編パンチラインの一曲。「なんで世の中で一番才能に恵まれているわけでもないのに音楽をやるの?」について語りきっていて無駄な言葉がない。叩きつけられるという意味で文字通りパンチラインだし、ちょっと説明できない。ラップをやっている人、というか何か物を作っている人たちはぜひ聴いてみて欲しい。「ミュージシャンとか そういう話ではなく」って。SR離れたところで、自分の中でとても大切な曲。

「ラボの好きなパンチライン」 

(アユム)今しかないのに暇しかないんです・・・

耳にいたーーーーーーい!

11. まずリスペクト(ラップ:B-hackの5人)

http://www.youtube.com/watch?v=8lUCEavsc68&f...

ナフリスペクト(enough respect)をもじったタイトルと「とめどーなーく誉めあいます」のサビ歌詞で分かるかもしれませんが、ジャパニーズ女子グループシットです。そして女子特有の「とりあえず誉めとく」精神に基づくやりとりが、コント的ずれを生み続け、結局は笑いに繋がる高度な歌詞(SDP「後者」的でもある)を、アルバム屈指のヒップホップ濃度高めなビート上で繰り広げてる。ヒップホップ作品としてもきちんと機能していながら、ごきげんな企画物としても一級品でギャングスタブギー。

「ラボの好きなパンチライン」 

(マミー)日本人離れ!(時間おいて2回目言う)・・・

誉めボギャブラリーの定番としてこれを多用している人いるよねークスッという。

12. いつか♪きっと♪B-hack (アユム ver.)(ラップ:アユム)

エンドロールで流れるアユムのレペゼン20代後半(!)バージョンの主題歌。俺は「右往左往」とこの曲のすべてが好きだ。こっちはSR2そのものの感動も直結してるから涙腺に来る。そして何度も言うけど、アユムの声、表現する力、ラッパーとは違うアプローチなんだけど、全部がこの歌詞にふさわしく、アユムが実在する女の子だよなって勘違いをしてしまう説得力がある。

「ラボの好きなパンチライン」 

(アユム)シュッシュッシュッ 遠く離れても シュッシュッシュッ 夢がつながるよ・・・

シンプルだからこそ力があって、要するに涙ダーーーーッ。

以上。SRサイタマノラッパー2サントラについて、ラボの感想でした。アユムはほんとアルバム作って欲しいなー。子どもの頃「おしんの小林綾子に農家のお婆ちゃんが米俵送りつけた」話を聞いてなんだそりゃって笑ってたけどさー、俺は今SHO-GUNにトラックを渡したいし、B-hackにラップうまいよ!って伝えたくなってる。この年になってミーハーになれるものに出会えたことがうれしい。おもしれーなーほんと。

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