みんなごめん。ここ数年のうなぎ欲を一気に満たしてしまった。
『ヒッチャー』
とにもかくにもルドガー・ハウアーが死ぬほど怖い。こいつは何がしたいんだ。ずっと気持ち悪い。殺したいのかと思ったら殺さない、脅かしたいのかと思ったら脅かさない、と思ったら突然殺しにくる。行動論理が全くわからない。素性も結局明らかにならんのだ。あの伝説の『グレートウォーリアー』(一体なんだったんだあの映画は)直後で、またしてもジェニファー・ジェイソン・リーと共演だったんだな、というか、あのウェイトレスが彼女だとは一瞬気づかない。ナイフを顔にあてがわれて脅される序盤の傑出した恐怖シーンや、給油所大爆発、車に縛り付けられた女…など、忘れられないシーンが多い傑作スリラー。
『いぬ 』
「帽子」という単語は、裏社会で使うと密告者、つまり警察のいぬ、という意味になる
こんな解説から、夜の街を行く帽子の男が映し出される序盤の雰囲気からクラクラする。暗い街を征くムショ帰りのしょぼくれたモーリス(セルジュ・レジアニ)がかぶる帽子に始まり、床に転がる帽子のカットで幕を閉じる本作。キューブリック『現金に体を張れ』といった傑作の向こうを張るような裏切りと勘違いに満ちた脚本も素晴らしいが、なんと言ってもカメラ。白黒を効果的に使い、メリハリの効いた構図も素晴らしいし、叩きつけるような雨の中を進む車を外から中から映す場面も内面の焦りを映し出すような緊張感がある(土砂降りでフロントガラスから前が見えなくなる演出は、ヴィルヌーヴが『プリズナーズ』で引用してましたね)。『モラン神父』があんまりハマれなかったメルヴィルだが、これは大傑作。
『ランジュ氏の犯罪』
ノワールというよりはもう少しほんわかとした雰囲気の漂う佳作だが、これもカメラが素晴らしい。出版社の社長にして小悪党の女たらし・バタラの部屋で、こい つの毒牙にかかる女のクローズアップに合わせて、大音量になる劇伴。なんというか、歌舞いてるなあ、という印象。このどうしようもない無能な社長の事故死をきっかけに、共同経営体制を採ることで経営を持ち直し、自身の作品も売れて夢が叶うランジュ氏が、何故犯罪を犯してしまったのか。中盤まで続く、なんとなく丸く収まっていく人情譚が、なんとも台無しになる夜の虚しさが暗闇にこだましているような作品。