ジョー・スワンバーグ&グレタ・ガーウィグ『ナイツ&ウィークエンズ』
マンブルコアとか映画館で観てると、どれだけちんちんやおっぱいが出てこようと「これを、ポルノとは、呼ぶまい」と固く誓う観客同士の無言の連帯を感じることが出来る。というのは半分冗談ながら、しかし物語における「セックス」の持つ意味があまりに大きいという自覚も、その連帯の礎となっているであろう。
元々本作は済東鉄腸さんのブログ記事で知り(基本、マンブルコアについては、このブログを一通り読んでおけば良い)、今年のグレタ・ガーウィグプチ映画祭でようやく観ることが出来た(他は全部観てた)。引用元のインタビュー記事なども追うと、スワンバーグとグレタ・ガーウィグの共同作業は、結果的に心底酷い状況に陥ったのは確かなのだろう。「幸せなカップルの映画」という構想は前半で挫折し、大喧嘩の末3ヶ月も口を利かず、再始動したのは一年後。そこから実際の時間経過同様、劇中の一年後にあたる後半を撮影したという。おそらくその結果、顕になった現場や人間関係の破綻が、劇中の二人の越えられない心理的な隔たりとしてフィルムに焼き付いているはず。維持できなかった遠距離恋愛が壊れ(維持できなかった共同作業が壊れ)、二人の社会的な立場などにも差が出来ていて、そんな現実をどのように処理して良いのかわからないから、一人さめざめと涙を流すグレタ・ガーウィグには、もうセックスしか残されていない。
『ハンナだけど、生きていく!』で、あれほど肉感的で奇跡のように美しい濡れ場を観ている我々は、ホテルの独り身には少し大きいが、二人だとちょっと狭いベッドを取り囲んだあまりに切ない時間を、「セックス」という魔法が解決することを望んでいる。鏡の前でドタバタと思い悩み、ブラ一枚?肩紐垂らす?両方の?寄せる?いっそ片乳だす?みたいに逡巡する時間は、コミカルである一方、ここから始まる凄まじい戦いの前触れであることは火を見るよりも明らか。しかし、「それ」は起こらない。そして、この映画は「それ」が起こらないことを描いていたのだった。