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ガンパウダー・ミルクシェイク

※ 忙しい人は結論だけ読んでください

「会社<ファーム>の依頼で、殺しやってます」という数秒の語りで、世界をなんとなく飲み込ませてしまう。ネオン看板風の制作会社クレジットから、モリコーネ風のテーマが流れ出した時点で鳥肌。15年前、母親と生き別れになった「ダイナー」に飛び込むカレン・ギラン演じる主人公サム。溶けたバニラアイスの乗ったシェイクを二人で飲むと大殺戮の幕は開き、またしても流れるKaren Dalton「Something on Your Mind」をバックに、サムは暴力に溢れた世界に置き去りにされてしまう。

1時間ぐらいかけて丁寧に語っていくべき物語を10分で済ませる手際。時は経ち、最強女アサシンとして名を馳せるサムは、ファームの金を盗んだ男を追ううちに、子どもを救いに単身ボーリング場に乗り込むことになる。同時に、殺ってはいけない人物を殺ってしまったことを知られ、追われる身となってしまうサム。序盤は、ノワールテイストとブラックユーモアの間を絶え間なく行き来し、食い合わせの悪い食材が突っ込まれたポトフを全力でぶちまけるような展開が続いていく。その混沌は、アクション映画のケレン味と大変相性が良い。鳴り響く子供用の携帯。本の中に収められた秘密の武器。上半身麻痺した女アサシン。笑いながらブチのめされる男たち。子どもが運転する車で追手から逃れる地下駐車場。フレッシュ。

おもむろに点けたラジオから流れるStereolab「French Disco」。良くて間抜け、最悪空虚に描かれる男性像とは対照的に、強く、独立しているが、それ自体なんら特別ではないという自覚を持った女性像。フェミニズム映画でありながら、画一的な虚像としての「フェミニスト」は端から断罪される。「連続殺人鬼なの?」「複雑なの」。この表象は、複雑さを内包したまま、それをわかりやすく中身を開陳しようとはしない。

このやり口は、『キル・ビル』や『子連れ狼』といった過去作を参照しながらも、タランティーノ的なスノビズムを決定的に過去のものにする。図書館でヴァージニア・ウルフ、エミリー・ブロンテ、ジェーン・オースティンらの著作を「武装」する意味は、あまりにも明白である。しかし『若草物語』のフェミニズム的なコンテキストを知らなかったとしても、この映画の面白さは一つも目減りしない(現に「自己啓発」コーナーにあった本の示す意味を、俺は全く理解していない)。つまり、ハイコンテキストでありながら、ノーコンテキストな映画として観ても十分に成立する、という強度。エドガー・ライトが『ホット・ファズ』で成し遂げたことに近いものがある。

『オオカミは嘘をつく』ナヴォット・パプシャド監督作。母と子、疑似的な孫という「縦」のつながりと、女性同士の「横」のつながり。群れをなし、顔を持たない有象無象としての男性(キャラクターらしいキャラクターが与えられるのは片手で数えられるぐらい)とは異なる形の連帯が、ある種の弾力性を以て打ち勝っていく姿がここに捉えられている。

結論:パンダのスーツケースを使ったアクションや、武器持った複数の女性がスローモーションで大暴れするシーンがたっぷり観れるので、オススメです。

MCATM

@mcatm

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