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RAW 〜少女のめざめ〜

少女はめざめる。自らの内にある「食人嗜好」に、である…。ガハハハハ。

粗暴な制度と艶かしくも爛れた性、そして数多くの「死」に囲まれた寮生活というゴリッゴリにストレスフルな環境で、食人の誘惑に苛まれていく少女の物語…。これだけ聞くと、「奇天烈さを狙ったカニバリズムもの」なんていう、超安易な企画を想像してしまうが、そうさせないのは作家の力。要は、「そこに行き着くまで」をどのように描くか、が肝でしょう。

傍若無人な先輩との上下関係に見られるような階級制度的な抑圧、優等生としての立場と教授との軋轢、性的な抑圧、そして動物の生と死を扱い、食人に染まっていく罪の意識。こうしたストレスが丁寧に丁寧に積み重ねられていき、ちょっとした弾みでマグマのように表出してしまう怖さ。入学オリエンとか寮内行事とかで、ペンキやら豚の血(妄想)をぶっかけられたり、イニシエーション気取って生のうさぎの臓物食わされるような学校、俺はすっごい嫌だ。それが象徴的に表現されたパーティーでの衆人環視で行われる「食人パフォーマンス」と、雪だるま式に膨れたストレスがほとんど爆弾のように投げつけられるクライマックスが圧倒的である。

初めて食人に手を出す「指」のシーンなど、カニバリズムを取り扱う映画では絶対に描かれなければいけない「食人シーン」を、丁寧に真正面から描いたのは本当に好感持てる。強烈な発疹に身悶え、掻きむしり、得体の知れぬストレスの表出として髪の毛を無限に吐き出す悪夢など、生理的に訴えかけるフレンチホラー風味の演出を駆使しながら、なんとも言い難いジャンルの映画を撮ったJulia Ducournau監督の手腕(なんと、クローネンバーグにすら似てない)。ちょっと恐怖趣味に走るとホラー、気取ればアート映画、と針が一気に触れちゃいそうなところを、良い塩梅で「奇妙な、どこにも属さない」映画を撮ったもんだなあと、感心する。パスカル・ロジェ『マーターズ』とか、『ハイテンション』みたいなものを想像すると、ちょっと裏切られるかも。音楽だけ切り取っても、良質なノイズミュージックとして聴けるレベルなんじゃないだろうか(ただ、切り取り方がギクシャクして、時間が止まってしまったように聴こえたところもあり、そこは勿体なかった)。

主人公のGarance Marillierは、全体的に文字通り身体張った演技を見せてて、その底知れぬ魅力がこの映画の質を底上げしていると思う。終盤のクラブシーンで大股開き目をギラつかせる描写、あれは狂気通り越してほとんどギャグに近いところにあった。あれだけ悪夢的な光景を描いておいて、意外と夢オチが少ない。ラストの諦念溢れる、超覚醒した視点が一番怖かったわ。

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