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スリー・ビルボード

失意の母が動く。実の娘を暴行の末に殺害した犯人を未だに逮捕出来ないでいる地元警察に業を煮やし、その署長を激しく非難する三枚の広告板を立てたことに端を発する騒動が、この物語の核である。

単にそれだけの発端が、斜め上の展開を芋づる式に引き寄せ、あれよあれよという間によくわからない方向に上滑りした結論にたどり着いたので、画面が暗転し、スタッフロールが流れ始めた時には顎が外れたかと思うぐらい仰天した。「今年初の俺デミー脚本賞!」と興奮したが、巷でも何やらオスカー確実だとか、まあそれも納得の凄い脚本(個人的には、『ザ・ギフト』を思い出しました)。ネタを割ったからといってどうなる映画でもないが、そうした「驚き」も映画の価値の一部なので、それ以上のことはここには記さないでおく。

監督はマーティン・マクドナー。全く知らなかったんですが、前作『セブン・サイコパス』はずっと気になっていた。「スランプの脚本家が7人のサイコパスを集めて脚本を書く」って、それだけ聞くと大体どんな話か想像付くものだが、これもその想像の範疇を遥かに超えたところで展開する物語が非常にスリリングな怪作(完成度は『スリー・ビルボード』に遥かに劣るけど…)。今なら、Netflixで観れます。

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アンドレイ・ズビャギンツェフ『裁かれるは善人のみ』のようなシリアス胸糞映画かと思いきや、意外なことに全体的にブラックユーモアで強力にシュガーコーティングされており、サスペンスによる物語推進力も相まって、単純なエンターテインメントとして飽きずに楽しめる。巧みなのは、画面後方や端の方、または一瞬差し込まれる細かなカットで物語の仔細を悟らせるその語り口。一見コミカルな物語が展開している横で、別の世界が口を開けていたりする。例えば、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(大好き)演じる広告マン=レッドと、そのアシスタントの女性の関係は、時折差し込まれる窓越しのショットからしかほぼ描かれない。サム・ロックウェルと主人公フランシス・マクドーマンドが喧嘩腰で長々とやり取りしている背後でも、警官たちは直接関係しないような情報を絶えず提供している。言葉やシーンで説明されているわけではない、そうしたディテールが、物語の理解の一助になっている。そこには、地方都市特有の、差別意識や暴力、無理解や偏見があり、それらが時には荒々しく、時には思ってもいなかった形でポロッと顕現してしまう。魅力的なキャラクターが作者の手を離れて動き出している、その豊かさからにじみ出る「物語の奥行き」を体験する楽しさが、この映画の面白さの核の一つだと思った。

リンチが監督しなかった『ツインピークス』のような、不可思議さとシリアスさ、ユーモアと醒めた目線、「喜怒哀楽」の全てが詰まった傑作だった。この奇妙な物語が、最終的にどこに落ち着くのか。ありきたりなストーリーテリングから遠く離れたところにある、その着地点を確かめるため、映画館に走ったとしても決して損はしないと思いますよ。

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