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自宅の前に高速道路が開通したことで、のどかに暮らしていた一家が崩壊する物語。ヨルゴス・ランティモスの語り口並に奇妙で、最終的に訪れるエクストリームな展開には呆気にとられてしまった。イザベル・ユペール、オリヴィエ・グルメ主演、ウルスラ・メイヤーの2010年監督作。

この「家」に住み着いて10年間。目の前の打ち捨てられた道路を大きく使って、ホッケーをしたり水着で日光浴をしたりと、楽しく過ごしてきた一家の生活が、突然の高速道路開通で一変。不便に、車の騒音に、プライバシー侵害に、徐々に家族の心が蝕まれていく。

かつて出来たことが出来なくなり、必要になる回り道や重労働。冷蔵庫一つ買うのにも、ガードレールを越え、激しい車通りの中を運び入れるのは一苦労である。不便な生活を強いられるところから始まり、渋滞に焦れる人々がゴミを投げ込むし、ラジオもいつの間にか交通情報ばかり、大きな道路が友人との関係も隔ててしまう…。こうした辛い生活が、長女が失踪して以降、いよいよ取り返しのつかない崩壊の方向へ加速する。「家」を出ることを決意した父親に対して、10年住んだ「家」に固執する母子三人が必死に抵抗した結果、父親は家を出ることを諦める代わりに「家」をコンクリートで固めることに妄執する。「空気穴」として明けた最後の穴を苛立ち紛れに封じてしまうと、ほとんど棺のような世界に閉じ込められた三人。

冒頭、深夜のホッケーシーンで疲れた身体を癒やしていた風呂場、はしゃぐ家族を映した光景が、土埃と薄明かりの中、棺のようになった終盤の風呂場の光景と呼応する。車が激しく行き来する道路で子供を追いかける母親が、突然車に対する恐怖に襲われた結果、死んだような表情で音も聞こえなくなる場面など、印象的なシーンが多い。長く心に残る引っかき傷のような作品。

MCATM

@mcatm

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