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去年見損ねた映画で、もし見れてたらランキングが変わってたかもしれないな…っていう映画が、思いつく限りで2本あるんだけど、そのうちの一本であるクリスティアン・ムンジウ『ヨーロッパ新世紀』を観てきた(もう一本はショーン・ベイカー『レッド・ロケット』でーす)。うむ。ランキング変わってたかもしれない。

冒頭で「この映画、事情がありまして、ルーマニア語を白、ハンガリー語を黄色、他の言語を赤で表示します」みたいなことが示されてビビリ倒したんだけど、この色分けがなかったらより理解しづらかったと思う。誰に聞かせて、誰に聞かせたくないのか。その辺りの醜悪な機微を「戯れ」として表現した中盤の寝物語は見事でした。如何にして「愛してる」を届けないか。この遊戯で用いられる「技術」が、憎悪の隠蔽に援用される。(まるで昨日観た『落下の解剖学』のよう)

中心に「現代ヨーロッパ」を据えて、厄介な「問題」がその神経に幾度となく触れる刃物のように配置されている。小さく斬りつける「経済問題」、大きく緩慢に深く斬りつけてくる「人種差別問題」…というように。その束になった円環が「死神の鎌」のように、小さき人々の首を刈っていく。そんな永久運動のごくごく一部を切り取って見せる、そんな話にも見えた(なので、2時間7分という上映時間は、圧倒的に短すぎると感じた)。

そんなことをモヤモヤと考えながら、豪徳寺の七月堂で行われていた『ことばあつめの夜』に家族で。ランタンを片手に、詩や散文をポストする会。暗闇でつらつらと『ヨーロッパ新世紀』のことを考えていた時に、ラストで描かれていた曖昧な情景のことがふわっと理解できるような気がしてきたのでした。面白かった。

帰り道、久しぶりに皆で豪徳寺の「まねき屋」へ。10年以上前に通っていた店。むすこが産まれた時、嬉しくて近所の友だち集めて祝杯挙げた店。相変わらず美味しいし、おもてなしの何たるかが店員一人ひとりに行き届いている店で、楽しい夜を過ごした。

MCATM

@mcatm

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