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パトリス・ルコント『仕立て屋の恋』を観て、強く奥歯を噛みしめる

蒸し暑い日だった。

何を観てもサンドリーヌ・ボネールが出てる。全フランス映画に出てるんじゃないかと思った時期があった(それはいくらなんでも大げさかもしれないが、マジでジャン=ルイ・トランティニャンは全部に出てるよね?)。パトリス・ルコント『仕立て屋の恋』も、サンドリーヌ・ボネールの映画。それと同じぐらい、ミシェル・ブランの映画でもある。二人の俳優が見事にハマりきってるせいで、80分弱という短い上映時間、ずっと物語の力場がグラグラと、均衡しないまま。

ミシェル・ブラン演じる「イール氏」の精神が試されている。性犯罪の前科持ちで、近隣の住人から嫌われており、女の影もない禿げ上がった男。何より、ロウソクなんじゃないかというぐらい、肌が青白い。そのイール氏が、暇さえあれば向かいの階下に住むサンドリーヌ・ボネールを窓越しに覗き見している。その様はさすがに不気味で、気付いたボネールを骨の髄まで震え上がらせるのだが、そのすぐ後に、彼女は艶めかしい表情で彼の前に姿を表す。わざとらしくトマトを転げ落とすと、這いつくばってそれを拾い集めることで、イール氏を挑発しているかのように見えて、にわかには信じられない。何を考えているのだろう、この女は。

イール氏の精神は長年の労苦を経てカチコチに固まっていて、警戒を解くことがない。胸襟を開かないイール氏も、ボネールの神経も、どうかしているとしか思えない。そんな謎めいた逢瀬も続く中、すべての心情が詳らかになると、俺の歯噛みは止まらなかったです。つらすぎる。

つらすぎる映画でした。面白かった。

MCATM

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