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寝床で今村夏子『むらさきのスカートの女』を読了する。圧倒的傑作、と思う。

なるべく予断なく触れて欲しい作品でもあるので、もうこの時点で本屋に走って欲しい。ただ、読者の感想を読んでると、あまりに感想がまちまちで、俺が思ったような衝撃をみなが感じるのか、自信はなくなってきた。ある街に、「むらさきのスカートの女」と呼ばれている女性がいて、その街に住む語り手はその様子を読者につぶさに伝えてくる。こうして「むらさきのスカートの女」に関するある種のレポートに触れるうちに、読者の中にはそれとは異なる種類の疑問、違和感が頭をもたげてくることになる(はず。全然わからないって感想も見た)。

ラストまで読み切って、では結局なんだったのか、を確認するためにいくつかの箇所を飛ばし飛ばし読んでみても、やはりここにある「主観」が、何を正確に、何をいい加減に、何を隠していたのかが一向に判然とせず、一見ブラックコメディとして実際声を出して笑ってしまうような間抜けな物語ではあるはずなのに、読了後は暗然とした思考の沼にハマったかの如き気分に陥ってしまう。お土産の多い作品だった。

文庫本には今村さんのエッセイも掲載されていて、それも併せて読むと、より解像度は増す一方で沼が深く深くなっていくので超おすすめ(解説にも、全面同意した)。今村さんの作品、主要なものはほぼ読んだ(?『こちらあみ子』『ピクニック』『あひる』『星の子』)のだが、どこか稚拙(語弊)にも感じるような手法を使う人だなあ、と漠然と感じていたものがスルスルと解けていく感じもある。元々、本にはそこまで触れてきた人ではないが故に、平易な言葉、特に話し言葉の応酬で、魅力的な魔界を作り上げる才能には感服しました。

MCATM

@mcatm

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