『イコライザー THE FINAL』/ぼくの考えたさいきょうのマッコールさんをありがとう
俺が見たかった「さいきょうのイコライザー」が実現していたので心底驚いた。俺のマッコールさんは苦戦なんてしない。マッコールさんが9秒と言ったら本当に9秒で終わる。厭な、いやーな敵を、圧倒的に強いマッコールさんがこともなげに殺害していく。心底残酷なやり口で。観客の「この敵にはバチの中でも特に最悪のがあたって欲しい」という欲望をてっぺんまで引きずり上げてから、本当にあててみせる。その在り方は、ただ「視点」が逆転しているだけで、スラッシャー映画のそれに近い。

「守るべきもの」の価値と、「滅ぼすべきもの」の邪悪さの掛け合わせで導きだされる「ざまあみろ度」が高ければ高いほど、「復讐映画」の成功率は跳ね上がる。何らかのミッションを抱えてワイン農場へやってきたマッコールさんのちょっとした油断が導いた、シチリアの小さな街(この映画唯一の「油断シーン」も、弱き者への優しい目線がベースにあり、つまり「優しさ」が彼をこの地に導いたとも言える)。「ロベルト」と名乗り、イタリアを、この地を、受け入れる覚悟を決めるマッコールさん。カフェ店員のアーミナのような活き活きとしたキャラクターたちが、この「守るべきもの」の価値を裏打ちする。
その大切なものを搾取し続ける「滅ぼすべきもの」として屹立する地元のマフィア=カモッラ。その鬼畜ぶりが大仰なものであればあるほど、マッコールさんと俺たちの怒りのボルテージは爆上がりする。見せしめとして首を括られた老人が窓を突き破る描写や、焼かれた魚屋で灰となる思い出の写真、「手を貸してくれてありがとう」などの醜悪描写は俺たちの燃料。燃えて燃えて燃え上がり、その手が地元憲兵の恩人ジオとその家族(物怖じせず見知らぬマッコールさんにクッキーをくれたかわいい娘を含む)に伸びた時、堪忍袋の尾を切らしたマッコールさんによる大粛清が始まるのだが、これは13日の金曜日における冒頭のイチャイチャと変わらんので、始まった途端にマッコールさんの勝ちは確定している。現に、ファーストコンタクトを、指二本で制圧するマッコールさん。
瞬殺に次ぐ瞬殺。よく考えたらアクション映画ですらなく、単に暴力。「すぐにだ」と言われたら、明日とか悠長なこと言わずに「すぐ」だという、ビジネスにおいても大切なことも教えてくれるマッコールさん。十分な胸糞悪さを経験している我々なので、ここまで来たら逆にマフィアが気の毒…とすらならず、マッコールさんならではの素晴らしい捨て台詞の数々「武器が近すぎるので反対側の男が命を落とす。彼の家族には同情する」「人生はタイミングが全てだ。お前のタイミングは最悪だ」などを堪能しながら、ひたすら粛々と溜飲が下がり続ける贅沢で優雅な時間と、大量の血が流れる。
内省の効いた優秀な復讐映画は、優れた文芸映画になり得る。マッコールさんが銃を手に取り復讐を誓う時、その視線の先に見える十字架が彼に内なる覚悟を促す。マッコールさんがシチリアにやってきた真の理由が明らかになると、そのあまりに病的なまでの善意があらわになる。「お前は、悪い人間か、良い人間か?という問いに「わからない」と答えた。そう答えるやつは、良い人間だ」と称されるマッコールさん。しかし「私の前では許さない。それ以外だったら何をやっても構わない」という潔癖と大量の血から成り立つ「善意」が、執拗な十字架の視線に耐えうるのか。俺はネオリアリスモ映画の傑作として捉えた。文芸作品である。
MCATM
@mcatm

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