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『マーベルズ』『ロキ:シーズン2』/喜べ。MCUがやっと前に進んだぞ

一つ一つの映画/ドラマは面白いし満足しているんだけど、話が一向に前に進まない。誰かがどこかでバトンを落としたのでは?という不安だけは拭えなかったフェイズ4以降のMCU。つい先日の金曜日に『ロキ:シーズン2』最終話と、キャプテン・マーベルがミス・マーベル、モニカ・ランボーとチームを結成する『マーベルズ』が公開されて、ヴィラン側の物語(「マルチバース」)も、ヒーロー側の物語(「新アベンジャーズ」と仮に定義します)も、ようやく前進した。安心。定命の俺が寿命で死ぬ前(あと30〜50年程度を想定)にきちんと決着付けて欲しいという望みが、叶う可能性もゼロではなくなってきた。

参考までに、フェイズ4以降の「前進の歴史」を主観で書いてみた(「新アベンジャーズ」については、新キャラの接続が確認できた時点で「前進」と捉えてます)。

  • 『ワンダヴィジョン』:話は超面白く、前進した。というか「マルチバース」の本格的な展開はここから始まった

  • 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』:前進。「新アベンジャーズ」の始まり

  • 『ロキ』シーズン1:「マルチバース」前進

  • 『ブラック・ウィドウ』:ほぼ前進なし

  • 『ホワット・イフ...?』:前進なし

  • 『シャン・チー』:超面白いが、新ヒーローが追加された以外ほぼ前進なし(まあ、若干「新アベンジャーズ」が進んだ、と言えなくもない。接続はしたよね)

  • 『エターナルズ』:話がややこしくなったが、前進なし。壮大な内輪もめ、で終わってしまうことなきよう

  • 『ホークアイ』:キャラは追加されたが、ほぼ前進なし

  • 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』:「マルチバース」前進

  • 『ムーンナイト』:前進なし

  • 『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』:ここで前進しないのはびっくりした。マルチバースを進めろよ、って思った

  • 『ミズ・マーベル』:キャラ追加されたが前進なし

  • 『ソー:ラブ&サンダー』:ほぼ前進なし(マジかよ)

  • 『シー・ハルク:ザ・アトーニー』:世界観を破壊しておいて前進なし。「マルチバース」を後退させたとも言える(フォローしておくと、最終話以外はすごい好きだった)

  • 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』:キャラ追加で前進なし。マジで?

  • 『アントマン&ワスプ:クアントマニア』:久々にちゃんと「マルチバース」が前進したのに評判悪くて、マジか…ってなった

  • 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』:ガーディアンズは閉じたが前進なし

  • 『シークレット・インベージョン』:なんとほぼ前進なし

「後半ヤバいな。ずーっと足踏みを続けてる(再補足ですが、一つ一つの作品はマジで楽しい)」という、定命の者特有のジリジリとした悩みが、つい先日の金曜日に少し進展した、という日なので、少しお祝いしたい。おめでとう。歓迎している。

リメイク版『キャンディマン』の監督ニア・ダコスタによる『マーベルズ』。俺は、『キャンディマン』も穴だらけだったと思っていて、正直、監督としてまだまだ力量不足なんだろうな、と推測してる。特に、事前のインタビューでも話題になった通り、上映時間を気にするあまり、必要な展開をカットし過ぎてて、心情が上手く読み取れなかったりする場面も多々あった。「キャロルおばさん」に対して憤りを顕にしたモニカ・ランボーが、次の瞬間、淡々と状況説明してたり、始まった戦争ほったらかしたり。おっちょこちょいなのかもしれない、監督が。でも、そういう「これからの人」を起用していく姿勢、いいじゃん(だよね?)。

切れ味とアイディアに溢れるアクションシーンとか、和気藹々とチームが団結していく縄跳びお手玉特訓シーンなど、「とにかく楽しい」状況は途切れない。同時に、エンドゲームで半ば即席で作られた「女子チーム」が、改めて必然性を以て構築されていく様に興奮。前進だよ、前進。おそらく旧アベンジャーズの中でも一番強いキャロル・ダンヴァースを核に、ある種の「親戚」としてその脆さの中枢に肉薄するモニカ・ランボーと、熱狂的なファンという形から始まるも、たった一作の中でヒーローとしての責任を自覚していくカマラ・カーンという三者の在り方と運命は、ヒーロー映画が持つ「強さと脆さ」「成長と責任」の衝突を力強く表現している。

『ロキ:シーズン2』全6話は、ほぼシーズン1と地続きで、どちらか片方では成立しない。12話の物語。MCU史上最も優れたアートワーク。前シーズンで、今後の災厄の元凶となることを予感させるべく登場した「在り続けるもの」は、「征服者カーン」としてその力の片鱗を後の『アントマン:クアントマニア』で披露し、多くの識者から「サノスより弱そう」との賛辞を浴びることとなるが、何を見ているのか。めちゃくちゃ怖いじゃん、普通に。己の筋肉と、恐ろしいルックスの部下たちを引き連れて、指パッチンへの暗い願望を募らせる紫のベイビー=サノスより、「何でもあり」のやつの方が、死ぬほど怖いよ…と思うんだが、そのSF的な恐怖はあまり共感してもらえないみたいで。

そうした「遠くにある恐怖」の解像度を、丁寧に丁寧に上げていこう、というのがいくつかのMCU作品で試みられていて、この『ロキ』がその本丸。「在り続けるもの」という存在はどんな問題を有していて、その問題を放置しておくといかなる脅威が顕現するのか、という状況を丁寧に説明し、そこにヒロイックな解決策を提示する。特に、自らが作り出した「何でもあり」な状況に対して、ある一定の収束策を提示してみせる手つきの確かさに感動してしまった。前進だよ、前進。大前進!

『エンドゲーム』〜『スパイダーマンNWH』という集大成的な大傑作2本以降、インフレしていく期待値と、悪化していく結果に、焦り、ごたつく内部の報道にも、意気消沈していたここ最近。「何が来ても能天気に楽しむ思考停止型ファン」「何が来ても重箱の隅的な批判を楽しむ思考停止型アンチ」ばかりが目立つが、両者、意地張らずに途中で意見変えてもいいんだよ、って思う。「穴のない完璧な作品」ではなくても、「楽しくて、今後に期待が持てる作品」であれば、現状がどうあれ問題ないはず(何度も言うが、『アイアンマン2』の出来とか、『インフィニティウォー』〜『シビルウォー』で感じていた絶望とか、忘れないでいたい)。なので、改めて、観たほうが良いよ、MCU。金曜日から始まった数週間は、改めてMCUを楽しむきっかけとなるいい機会だと思った。

MCATM

@mcatm

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