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『私、オルガ・ヘプナロヴァー』/砂漠のような心に浮かぶ蜃気楼として

チェコ最後の死刑囚オルガ・ヘプナロヴァーを描いたフィクション。本人とは無関係の罪なき群衆にトラックで突っ込むという、あまりに陰惨な大量殺人を行った人間を描く時に、同情や赦しが与えられるのであれば、それはもうそれなりの理由と覚悟が必要になるはずで、この映画も当然その前提から逃れることは出来ない。そのうえで、いかなるアプローチを採るのかが、重要な作家性として作品に刻印される。

そう考えると、彼女の背景に心を寄せ、何があってこうなってしまったのか、凶行に至るまでの理由を探し出そうと苦労してみせる監督のアプローチは、場合によっては批判にも値するレベルで十分に同情的だと思う。そうまでして心情を読み取ろうとした監督の前に広がる、寂寞荒涼とした心の闇。その同情すら寄せ付けないほどの「死んだ感情」に監督は戸惑い、登場する弁護士を自らの分身として、その旅路の総括をさせるのだろう。

物語は、その旅路の過酷さを説明する。周囲の人間の差し伸べた手を一方的に無視し、唾棄していくオルガの行き着く先は感情の墓場で、そこに至った後はもはや崩れ落ちる墓石を眺めているような状況。極寒のベッドで吐いた唾が、自分に垂れかかっていた。

MCATM

@mcatm

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