Post

Gary Young&Pavement『ラウダー・ザン・ユー・シンク』

ペイヴメント初代ドラマー「プラントマン」ことギャリー・ヤングと、主に初期ペイヴメントのドキュメンタリー映画。結構前から制作のことは報じられていたし、丁度去年のSXSWで上映されたことや、プロデューサーとしてスコットが尽力していることも見ていたので、可能だったら日本でも上映されないかな…と期待していたら、突然謎のタイミングでイメフォ一館での上映が決定。感謝しかない。この恩に報いるためには、初週に観る。その義務がある。

『ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』との副題を持つ本作なので、自然と話は「スコットとSMの幼馴染がギャリーのスタジオを訪れ、彼らから解雇されるまで」の数年間の物語がメインになる。20代のメンバーに40歳のドラマーが交じっているという「悪目立ち」は、当事から良くも悪くもペイヴメントというバンドの立ち位置を独特のものにしていたと思うが、更にそのドラムスタイル、ライブの度に野菜を配るなどの奇行、ドラッグに飲酒、演奏真っ最中の逆立ち、など、彼をある種の「伝説」に持ち上げた背景は思いつくだけでも大量にある。それを、「今だったら病名が付く」と言ってしまう弟の視座は、家族ならではの諦念に満ちていて、含みを感じずにはいられない。

僕らファンは、ギャリーが解雇された経緯を、複数のソースから想像し、自分たちなりの結論を組み立ててきた。納得させてきていた。個人的には、幼すぎて実際にギャリーの演奏を観ることは叶わなかったが、ドキュメンタリー『Slow Century』(今ならYouTubeで全編観れます)やブート、YouTubeなどにアップされた当事の映像を観れば、ギャリーが如何に機能しなくなっていたのかが簡単に分かる(決めのタイミングでドラマーが眼の前で逆立ちしていることに気づいた時のSMの顔よ)。だから、ミュージックビジネスの一つの大きな歯車としての「バンド」のことを考えれば、解雇という結論を飲み込むのはさほど難しくはない。

しかしながら、ギャリーの存在は、バンドが獲得した「いい加減さ」というチャームの象徴でもあった。だから、この解雇は、「いい加減さとの決別」を意味するようにも取れる、というところが問題だった。現に、この解雇とそれに伴うスティーブ・ウエストの加入で、バンドはタイトさとポピュラリティを獲得し、アルバムを出しツアーをする毎に、その演奏は堅牢さを増していった(それに伴って、スコットの覇気がどんどん失われていった話は別の話…だろう…)。『Crooked Rain』以降のバンドも大好きな我々にとって、その事自体が問題だったのではない。要は、彼らが今後の活動で何を大切にしていくのだろう、という不安が問題だったのである。1999年の解散を以てしても、解消されなかったその不安に、この映画は柔らかい光を当てた。

今まで、友達と安いスタジオで数曲録音しにきただけなのに、色々口出してきてしまいにはドラム叩き出したおっさんなんて、マジで煙たかっただろうな…と訝しく思っていた。だが、地元ストックトンのパンクシーンでの信頼が篤かったことや、ドラムの腕に一目置かれていたこと、何よりその楽しい性格を、少なくともボブやマーク、スコット、SMは心から親しみと敬意を覚えていたのだな、ということが分かった。それが前提としてあるから、スコットは事ある毎に「彼を深く傷つけた」と自戒する。ただ、ビジネスに背を向けてでもバンドが大切にしたフェアネスが、今もギャリーとその奥さんに向けられているのを知って、俺は心が温まったし、大好きなバンドに失望させられなくて良かったと思った。

その後の「プラントマン」話や、成功がご破算になった話など、単純に「ロックスターの成功と挫折」を描いたドキュメンタリーとして観ても相当おもしろい。個人的には、Sonic Youthとのライブで、5000人のお客さんへの恒例野菜配りをサーストンだけが手伝ってくれた話とか、マイケル・スタイプ(R.E.M.)がチラッと出るボーナスタイムがあったり、「日本のローリング・ストーン」Rockin' Onに連載していた「親父にきけ!」について嬉しそうに語っていたりと、たまらない瞬間が多々あった。評論家が「ペイヴメント初期作でのノイズや低音質は計算で戦略」とかいい加減なこと言ってるなと思ったら、その直後にギャリーが完全否定していて溜飲が下がったりもした(SMはもうちょっと「計算もしてたよ」感出してたけど、結局よくわかってなかったよね、みたいな結論)。

「もうちょっと普通だったら…」。ギャリー自身が飲酒でダメにした「プラントマン」後の成功について、怒りを交えて吐露するHospitalのメンバー。だけど、もしそういうことを全部自分で対処できるような奴だったら…?そもそも、出会ってもいなかったかもしれない。めちゃくちゃだったとしても、何かを始める行動力を持った人間の方が、面白いし、世界は変る。ストックトンのシーンで活動を共にしていた友人のアーティストKelly Foleyが感謝を口にする様子に、グッと来てしまった。2023年、本作公開後に亡くなったギャリー・ヤング。変人と呼ばれても周囲に影響を与え続ける人の数奇で美しい人生を綴った作品としても仕上がっている。

(んで、最後に事件起こってたよね、Pavement 2023。びっくりしてしまった。とは言え、ギャリーとスコットしか参加していないと想像はしているけど、とにかく)

MCATM

@mcatm

もっと読む